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2011.06.29

NO.65 東電の監査役の責任


新任監査役:先日、超一流企業のOBから「原発事故の場合、監査役の方の責任は問われないのでしょうか?」とのメールをもらいました。どう答えすればよいのか、お教えください。

先輩監査役:悩ましい問題ですね。

新任監査役:今までの不祥事で監査役の責任を問われるケースが見当たりませんね?

先輩監査役:ゼロではありませんが、ほとんどの不祥事は監査役の責任は問われません。
但し、監査役自身が総会屋にお金を渡したという例などは、勿論、論外ですが・・・。

新任監査役:確かに不祥事の実行者はほとんどが執行側ですね。

先輩監査役:このように監査役の法的責任が認定された事例が希なため、監査役は法的責任を問われることはないと思っている人が多いが、それは誤解です。

新任監査役:知人の疑問も具体的でありませんが、推測すると、
1.監査役はきっちり監査をしていたのか。
2.重大事故に結びつくことについて気づいたとき、それを執行側に伝えていたか。
3.伝えても執行側が動かないとき、何か法的な措置を執ったか。
などでしょう。これらの個々について、事例で含めて教えて下さい。

先輩監査役:法律が絡むことなので、専門家のお話を一部引用します。
それは鳥飼総合法律事務所弁護士の吉田良夫氏が書いておられ論文で「コーポレート・ガバナンスにおける監査役の使命と責任 最近の事例を前提にして」というものです。

まず、1.監査役はきっちり監査をしていたのか。と言う問題ですが、
東電の監査役会の監査報告書を見る限り、法定事項は洩れなく監査されていると考えられます。しかし、報告書の文言は、日本監査役協会のひな形とよく似ています。と言うことは東電固有の内容になっていないのです。
 また、東電は連結子会社数が 166社、持分法適用関連会社数が 70社もありますが、それを常勤の監査役3名と非常勤監査役4名で監査している。監査役スタッフも応援しているでしょうが、その精度や範囲については、疑問ですね。

新任監査役:それと、監査に必要な法的知識や判断となると疑問が残りますね。
 また、「取締役の職務の執行に関する不正の行為又は法令もしくは定款に違反す
る重大な事実は認められません」と言い切っていますが、これについてはいかがですか。

先輩監査役:監査役には、弁護士の高津幸一氏がおられますので大丈夫でしょう。しかし、「事実は認められない」と言い切ることは、難しいのです。そのことについて先ほどの論文では次のように書かれています。
「本当に違法行為はないといえるのか、そのことについて監査役はなかなか確実な証拠を得ることができない不存在の証明は「悪魔の証明」とも言われ、その立証は非常にハードルが高い。このように違法行為の不存在の証明は容易ではないのです。

新任監査役:法定で争うとどうなるか、分からないということですね。

先輩監査役:それが大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失事件では、監査役が取締役の職務執行の監査及び会計監査人の監査結果の適正性の監査について任務懈怠がなかったかどうかが争点となりました。その結果、判決の中で、ニューヨーク支店に往査した監査役だけが、会計監査人による財務省証券の保管残高の確認方法が不適切であることを知り得たはずであり、これを是正しなかったために未然に防止することができなかった、ということで監査役の任務懈怠を肯定されたのです。
 もう一つ、ダスキン事件で大阪高裁の判決は「取締役の明らかな任務僻怠に対する監査を怠った点において、善管注意義務違反があることは明らか」と判示し、監査役に巨額の
損害賠償責任を認めています。

新任監査役:監査役も罪を問われることがあるのですね。知りませんでした。緊張して、仕事をします。

先輩監査役:次に「2.重大事故に結びつくことについては、執行側に伝えていたか。」と言う点ですが、この点については、取締役会議事録やトップとのミーティングの記録などでも確認が可能でしょう。問題はトップへの影響力がどの程度か、です。
監査役とトップとの力学です。監査役がトップの元の部下だったり、取締役になったことのない人が監査役になるとトップへの発言は、心ならずも控えめになり、トップを動かすものになるか心配です。

新任監査役:それで社外監査役が義務づけられているのではないのですか?

先輩監査役:そうなのです。そこでトップは、社外監査役を探して、お願いして、候補に決めるのですが、自分を監査する人にどのような人を持ってくるか、それが悩ましいところです。
 東電の社外監査役の林貞行は外交官だった人です。小宮山宏監査役は東大総長、総長の前は東大工学部長であつた人。東大には東電から多額の寄付があり、「原子力村」には東大工学部出身者が多い。社外監査役の大矢和子さんは株式会社 資生堂 常勤監査役を歴任された人。この様な人たちが、どの程度モノが言えたのか、言ったのか疑問視する声も聞こえてきますね。
(詳しくは「ガバナンス情報」NO.61 東電の社外監査役をお読み下さい)

新任監査役:なるほど、色々な思惑が絡んでいそうですね。

先輩監査役:最後は「3.それでも執行側が動かないとき、法的な措置を執ったか」ですね。これについては、関係する法令が2つあります。会社法382条(取締役への報告義務)と会社法385条(監査役による取締役の行為の差止め)です。
条文を確認しておきましょう.

<第382条> 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。

<会社法385条>
1.監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。2.略

 監査役が、この差止請求権を行使することは、会社の機関としての監査役の義務であると理解されているます。事例ですが春日電機事件があります。

常勤監査役(債権者)が同社の代表取締役(債務者)に対し、取締役の違法行為差止の仮処分命令2件を申し立て、それが2件とも認められたのです。
 さて、東電の場合はどうか、差止請求権を行使はありませんでした。しかし、問題がなかったかと言えば、そうでも無さそうです。それは、「取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある」かどうかの認識の差があるでしょう。そして、正しく認識しても差止請求権を行使するという勇気を持っていたか、ということも残りますね。

新任監査役:これから東電の内情が色々分かってくると株主が代表訴訟を起こすかも知れませんね。

先輩監査役:アメリカの株主はその準備を始めているとか?敗訴すれば、巨額の賠償金は間違いがないでしょう。

新任監査役:もっと、真面目に仕事をします。ありがとうございました。

先輩監査役:前述の吉田弁護士は次のように監査役に警鐘を鳴らしています。

「監査役の本来の役割は、取締役の職務執行に問題がないかを監視し、問題の端緒があればそれを追及し、さらに違法行為を発見すればそれを是正することである。それが監査役の使命であり、コーポレート・ガバナンスが監査役に求めていることである。(中略)
 もしも取締役に違法性の疑われる行為がある場合にはその旨を取締役会において指摘すべきである。たとえ他の監査役と意見を異にしても、自らの信念に基づいて不正もしくはその疑義があるという判断に至ったならば、監査役の独任性に基づく権利義務である個別監査報告においてその問題性を指摘するなり、そのいとまがない状況であれば春日電機やトライアイズの監査役のように取締役の違法行為差止の仮処分申立といった是正のための具体的行動に出るのが監査役の使命である。(中略)
 たとえ以前は社長の部下であったとしても、時代の変化を察して現在の時代感覚にあった活動をするという観点から、いったん監査役に就任した以上は社長の部下という感覚を捨てて是々非々で監査するという姿勢が求められるのである。」

新任監査役:肝に銘じておきます。■

- 監査役と内部監査担当は監査を通じて、会社と社会に貢献できる-
     Web:http://tada.cocolog-nifty.com/kansayaku/

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